内閣府の事業継続ガイドラインとは?BCPを軸にした防災戦略
2024/03/28.
このコラムでは、2005年に内閣府が策定した事業継続ガイドラインを深堀りし、災害時における安否確認と事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)の重要性に焦点を当てます。事業継続ガイドラインの概要から、BCPの枠組み、安否確認システムの統合、成功事例に至るまで、事業継続の策定と実行のための実践的な洞察を解説します。
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2005年内閣府事業継続ガイドラインの誕生
2005年、日本はBCPの概念を深化させる重要な進展を遂げました。この年、内閣府は事業継続ガイドラインを策定し、災害時における企業活動の継続性を保障するための基盤を整備しました。この事業継続ガイドラインを策定する背景には、過去の自然災害から学んだ教訓と、経済活動の連続性を保障することの重要性があります。
日本は世界でも有数の自然災害が多発する国の一つです。
地震、台風、洪水など、年間を通じて様々な災害が発生し、企業活動に甚大な影響を及ぼしています。1995年の阪神・淡路大震災や2004年の新潟県中越地震が発生するなど、大規模な災害は社会経済に深刻なダメージを与えました。こうした甚大な災害の発生が、事業の継続性に対する認識を高める契機となり、内閣府は全国の企業に向けた事業継続ガイドラインの策定に乗り出したのです。
事業継続ガイドラインの主な目的は、災害時における企業の事業継続能力を向上させ、経済活動の早期回復を促進することにあります。
具体的には、BCPの策定を通じて、企業が直面するリスクを事前に特定し、それらに対する対策を講じることで、災害発生時の損失を最小限に抑え、迅速な事業再開を可能にすることを目指しています。
事業継続ガイドラインは、以下の主要な構成要素から成り立っています。
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これらのステップを踏むことで、企業は自社のリスクを的確に評価し、有効なBCPを策定することができます。また、事業継続ガイドラインは事業の規模や業種に関わらず、全ての企業に適用可能なフレームワークを提供しています。
事業継続ガイドラインの策定は、日本の企業が災害による影響から迅速に回復し、社会経済の安定を維持するための重要な一歩でした。この事業継続ガイドラインは、企業がリスク管理とBCPをより体系的かつ実践的に策定することを可能にし、災害時の回復力の向上に大きく寄与しています。
BCPの枠組みと要素
内閣府が策定した事業継続ガイドラインは、日本の企業がBCPを策定し、実行するための枠組みを提供しています。
BCPとは、災害や緊急事態が発生した際に、企業がその影響を最小限に抑え、事業活動を迅速に再開するための計画です。
BCPの基本構造と、その策定に必要となる主要な要素を詳しく見ていきましょう。
BCPの重要性と基本構造
災害は予告なく発生し、企業活動が困難になる可能性があります。BCPは、こうした中断から企業を守り、経済活動の持続可能性を確保するための重要なツールです。計画があることで、従業員の安全を守り、重要な業務を継続し、顧客との信頼関係を保持し、最終的には企業の存続を可能にします。
BCPは事業継続ガイドラインの構成要素に照らし、以下の四つの主要なステップで構成されます。
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事業継続ガイドラインにおけるBCPの核心要素
内閣府が策定した事業継続ガイドラインでは、BCPの策定に当たって特に重視すべき以下の要素が挙げられています。
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BCPの策定と実行は、災害や緊急事態における企業の回復力を高めるための重要な取り組みです。内閣府が策定した事業継続ガイドラインには、この取り組みを支援するための貴重な方策が書かれています。リスク評価、事業影響分析、復旧戦略の策定、そして計画の実施とテストを通じて、企業は災害からの迅速な回復を実現し、その存続を確保することができます。
安否確認システムとその統合
BCPにおける重要な側面の一つが、災害発生時に従業員の安全を確認し、迅速な対応を行うための安否確認システムです。
それでは、安否確認システムの役割、そのBCPへの組み込みと実践例とは、どのようなものでしょうか?
安否確認システムの役割
安否確認システムは、災害発生時における従業員の安全を確認し、迅速な対応を行うための中核的なツールです。このシステムを利用することで、従業員の安全状況を迅速に把握し、従業員やその家族からの情報収集を効率化することが可能になります。
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これらの機能により、安否確認システムは災害対応の初動を大幅に改善し、企業が従業員、ひいてはその家族の安全を守りながら事業の連続性を確保する上で重要な役割を果たします。
BCPへの安否確認システムの組み込み
BCPへの安否確認システムの組み込みは、従業員安全確保と迅速な対応の鍵となります。
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実践例: 安否確認サービスの運用と効果
日本における多くの企業は、企業規模の大小を問わず、安否確認システムの重要性を認識し、その導入と活用を積極的に行って従業員の安全を確保に取り組んでいます。ある企業では安否確認システムの導入により、災害発生直後から迅速に情報が共有され、効果的な対応計画を立てることができました。中小企業でもインターネットベースの安否確認システムを利用し、コストを抑えつつ従業員の安全確保に取り組む例が見られます。
これらのシステムは、災害発生時に自動的に安否確認メッセージを送信し、受信した従業員からの情報を管理者がリアルタイムで確認できる機能を提供しています。
安否確認システムは、災害時のBCPにおいて不可欠な要素です。このシステムを効果的に組み込み、定期的にテストすることで、企業は災害発生時に従業員の安全を確保し、事業活動の迅速な再開を実現することができます。
事業継続ガイドラインの適用と成功事例
事業継続ガイドラインの適用による効果
事業継続ガイドラインの適用は、多くの企業にとってBCPを策定し、実施する上での指針となりました。
例えば、リスク管理の強化、従業員の安全確保、および事業活動の迅速な再開が挙げられます。事業継続ガイドラインに従った企業は、災害時のダメージを最小限に抑え、事業の継続性を確保することができました。
国内企業における適用事例:防災先進県静岡の16,000名以上の従業員を持つ大手国際物流企業のグループS社(以下、グループS社)
グループS社は防災先進県静岡に本社を置く会社です。長い歴史を持ち、国内外の物流サービスを提供しています。
また、140社以上のグループ企業、連結16,000名以上の社員を抱えるグループの中核企業として、物流だけでなく、不動産や情報サービスなど、幅広い分野での事業展開を行っており、多岐にわたる顧客ニーズに応える総合的なサービスを提供しています。
2005年、グループS社に内閣府から事業継続計画策定の指導があり、防衛庁(当時)のキャリア官僚をグループに招き入れて本格的なBCPの策定を始めました。
かねてから静岡県は予想される東海大震災や南海トラフ地震などの災害に強い地域づくりを目指す「防災先進県」として、地方自治体と地元企業が連携し事業継続ガイドラインに基づくBCPを推進しており、地域全体の回復力の向上と、災害時の経済活動の迅速な回復が期待されています。
その静岡県は横に長い県であり、大規模地震があったときには富士川と大井川が氾濫して中央に位置する静岡市内が寸断され陸の孤島になる恐れがあります。
この事態への備えとして、静岡県は災害発生の4日後にスーパーゼネコンと陸上自衛隊が復旧支援のために清水港に到着する、という災害時の想定シミュレーションをしていました。しかしこのシミュレーション通りになってしまった場合、グループS社は自分たちの顧客がスーパーゼネコンにすべて奪われてしまうのではないか、という脅威を感じました。
そこでグループS社は、災害発生後すぐに従業員の安否確認を行ったあと、無事の確認が取れた従業員が3日以内にトンネルや橋や主要幹線などの交通状況や社会インフラの状況をハザードマップとして最優先に作成するという計画をBCPの初動対策として立てたのです。
この計画の特筆すべき点は、「どの場所が被災してどの道が通れてどのようなルートが安全か」などの交通状況を把握していることを根拠に、4日後に到着したスーパーゼネコンを従えて陣頭指揮を取ることで、清水港周辺の自分たちの顧客を中心に速いスピードで復旧支援が可能になることです。
さらに凄いのは、他社の顧客も復旧することで自分たちの顧客へとひっくり返すという壮大な計画も準備し、災害というピンチをビジネスチャンスに繋ぐ「攻めのBCP」を策定していました。
この「攻めのBCP」の運用にあたり、電話もメールも繋がりにくい大規模災害で速やかな事業継続のための初動対応をするために、グループS社としても安否確認システムを導入することが最優先課題になっていました。
当時はセコムやNTTなどのレガシー系の安否確認システムの導入を検討していましたが、グループS社のBCPの要求に合うものがなかったため、株式会社アドテクニカへ相談してグループ向けに1から設計した安否確認システムを開発する必要があるという結論に至りました。
この独自の安否確認システム開発後には何度も図上訓練などのシミュレーションを繰り返し行い、安否確認システムをさらに使いやすくするための仕様変更やアップデートなどを重ね、開発が進みました。
当時のグループS社から依頼があった安否確認システム要件としては、
・自動配信であること ・家族安否ができること ・管理者と一般の掲示板で意思決定や情報共有や指示などの初動対策ができること ・パスワードが不要で簡単に使えるもの そして ・GPSでの位置情報の共有ができること |
ということでした。
グループS社は「共生」、共に生きるという理念を掲げていることから、災害時に負傷した社員を守ることもBCPの目的としていました。
人命救助として助けに行くためには、「どこでだれがどんな状況か?」という位置情報を把握することが必要不可欠でした。
この要求をクリアするため、今でも操作性の一番高いGoogleマッププラットフォームのライセンスをカスタマイズし、安否確認システムにマップ機能を実装しました。
2年後の2007年に安否確認システムの初版がリリースされ、その後、自動配信の速度改善やパスワード不要の技術を搭載などのアップデートを重ねてきました。
この積み重ねが
2010年、安否確認システム「安否コール」のリリース
として結実しました。
安否確認システム「安否コール」について詳しく知りたい方へ |
こうしてグループS社は、事業継続ガイドラインを参考にした独自のBCPの策定、特に、安否確認システムの導入や代替物流ルートの確保など、事業の特性に合わせた対策を講じることで、東日本大震災時にも事業の継続性を高いレベルで保持することに成功したのです。
グループS社は、日本政策投資銀行から5回連続で「防災及び事業継続への取り組みが特に優れている」という最高ランクの格付を取得し、「DBJ BCM格付」に基づく融資を受けBCPの運用を続けています。
事業継続ガイドライン適用の課題と展望
事業継続ガイドラインの適用には、まだ課題が残ります。
特に大きな課題は、中小企業では資源の制約からBCPの策定が遅れがちであることです。
この課題を克服するためには、政府や地方自治体による支援と啓発活動が重要です。また、テクノロジーの進化を取り入れたBCPのアップデートも必要とされます。
今後、企業は災害だけでなく、パンデミックやサイバー攻撃など、新たなリスクにも対応できるよう、BCPを進化させていく必要があります。具体的には、クラウドテクノロジーの活用、リモートワークの導入、サイバーセキュリティの強化など、変化するビジネス環境に対応した対策を講じることが求められます。
おわりに
2005年の事業継続ガイドライン策定以降、日本の企業は災害対策とBCPの策定に大きな進歩を遂げました。グループS社や静岡県などの防災先進県の取り組みは、その成功例の一端を示しています。
今後も、事業継続ガイドラインの精神を継承し、新たな課題に対応することで、企業は事業の継続性をさらに高めていくことができるでしょう。
「世界中のコミュニケーションをクラウドで最適に」することをミッションとして掲げ、2000社以上の法人向けのデジタルコミュニケーションとデジタルマーケティング領域のクラウドサービスの開発提供を行う防災先進県静岡の企業。1977年創業後、インターネット黎明期の1998年にドメイン取得し中堅大手企業向けにインターネットビジネスを拡大。”人と人とのコミュニケーションをデザインする”ためのテクノロジーを通じて、安心安全で快適な『心地良い』ソリューションを提供している。
- 事業内容
- デジタルマーケティング支援
デジタルコミュニケーションプラットフォーム開発提供 - 認定資格
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