製造業のBCPとは?在庫管理やサプライチェーンの保護についても解説
2021/12/27(2021/12/24).
BCP(事業継続計画)は、製造業にとっても重要なものです。
「BCPは国や自治体、インフラ企業やグローバル企業などがつくる特別な計画で、製造業では防災対策があればよい」と考えられがちですが、それは誤りです。
実際には、在庫管理やサプライチェーンをもつ製造業こそ、事業規模の大小を問わずBCPを必要とする業種です。
本記事では、製造業がBCPを策定すべき理由と、製造業におけるBCPの概要、具体的に注目したいポイントについて、企業規模別に解説します。
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製造業こそBCP対策を
はじめに、BCPの意図や全体像と、製造業の持つ社会的な役割を確認してみましょう。
製造業がBCPを必要とする理由が自ずと見えるはずです。
BCPとは
BCP(事業継続計画)は、大規模災害などにより自社に甚大な被害が発生したときでも事業を中断させない・中断した場合でも早期に復旧し事業への影響を抑えるための計画です。
災害発生直後は、何よりもまず命を守り安全を確保する必要がありますが、企業活動を中断し、再開できない期間が長くなり生産が停滞することは、取引先からの信頼を落とすことに繋がります。その結果、早く復旧した競合他社にシェアを奪われるおそれもあります。
BCPは、災害や事故によって企業活動が脅かされたときでも、事業を継続させるための計画です。
BCP策定の際には、自社にとって中核となる、どうしても中断してはならない事業を絞り込み、その中核事業を維持し続けるための対策を事前に行います。
製造業でBCP対策が重要な理由
日本は「災害大国」と呼ばれるほど自然災害が多く発生するため、その対策でもあるBCPは、どの組織にとっても必要とされています。
特に製造業は、その工程の中で多くのサプライヤーから資材や部品を調達し、複雑なサプライチェーンを形成しています。そのため、災害発生時にどの工程の何がボトルネックになるかを見定め、事業を守る施策をしなければ、グループ全体へ大きな影響を及ぼしてしまいます。
BCPの重要性が国内でクローズアップされたのも、製造業の被災がきっかけでした。
2007年7月、新潟県中越沖地震(最大震度6強)が発生したときのことです。
その3年半近く前の2004年10月に最大震度7の新潟県中越地震が発生しており、地震対策はある程度行われていました。
このため人的被害は比較的少なかったのですが、自動車のエンジンのピストン部分を作っている企業の設備が転倒して製造が止まってしまい、全国の自動車メーカーが生産停止になる事態が発生しました。
この教訓もふまえ、2008年に中小企業庁が「中小企業(事業継続計画)BCPガイド」を策定。運用指針が公開されています。
事業が停止しない程度の在庫量を持つ必要がある
製造業が事業を止めないために最も重要なポイントは、工程内の資材や部品が途絶えたケースを想定して対策することです。
災害によって流通が途絶える場合、再会までには通常3日程度、大規模な災害なら7日程度の時間を要します。その期間、自社の最も中核となる事業が継続できるだけのリソースを、社内外を問わず確保しておく必要があります。
自社内の設備が被災しないための対策や人員確保に加え、流通が停止している間の資材や部品が滞らないよう備蓄しておく在庫調整も重要です。
ただし、在庫は存在しているだけでコストがかかります。いざというときの備えで平常時の効率を低下させては元も子もありません。在庫を抱えてでも備えておくべき案件は何なのかを見極め、在庫の循環を意識した業務の棚卸しをしましょう。
【会社規模別】製造業におけるBCP
ここからは、企業規模別に具体的な策定のポイントを見ていきましょう。
日本の製造業は、日本の場合、大手メーカーを中心に様々な規模のサプライヤーが資材や部品、技術を供給する構造です。
大手メーカーがBCPを考える際には、この供給ルートをいかにして守るかが大きなポイントです。
一方、サプライヤー側の中小企業は、大手メーカーの供給ルートから外れないため、各自の供給機能をいかに停止させないかが、BCP策定の重要ポイントになります。
大手メーカーの場合
大手メーカーの場合は、調達先の分散化と、サプライヤーへのBCP導入の指導がポイントになります。
調達先の分散化・在庫調整
調達先の分散化や在庫管理方法の調整は、大手メーカーでは必ずといってよいほど実施されているBCP戦略です。
製造の効率化や品質管理の面では、特定のサプライヤーに得意な部品を任せ、専属にして受発注・搬入し、極力在庫管理のコストを下げる調達方法が一般的でした。
しかしこの方法では、そのサプライヤーが被災した場合に供給が完全にストップし、操業停止に追い込まれる恐れがあります。
調達先を分散し、特定のサプライヤーへの依存度を下げ、リードタイムに必要な在庫は常に備蓄しておく。そうすることが製造工程の強靭化を図る第一歩目となります。
ひとつの事例を紹介しましょう。
東日本大震災が発生した際、トヨタ自動車では、東北地方のサプライヤーが被災して基幹部品の半導体の調達に支障が生じ、国内では4か月、海外では半年もの期間、生産調整を余儀なくされています。
在庫を極力持たない「ジャスト・イン・タイム方式」の生産で知られてきたトヨタ自動車ですが、この震災の教訓をふまえてトヨタ自動車は半導体の調達体制や在庫管理のあり方を見直しました。その結果、現在の世界的な半導体不足で他の自動車メーカーが減産に追い込まれる中、トヨタ自動車はその影響を受けることなく生産できる力をつけているのです。
協力企業へのBCP導入指導
複雑に絡んだサプライヤーが産業構造をつくる大手メーカーにとって、BCPを実行性の高いものにするためのもうひとつのポイントが、サプライヤーとなる協力企業の事業継続力の強化、つまりBCP策定支援です。
資材や部品の調達先は多くが中小企業なので、いつ起きるかわからない非常時への投資が難しく、個別に計画を立てるためのノウハウや人材がない場合もあります。このために策定が遅れることも少なくありません。
大手メーカーがサプライヤーにBCPの知識や具体的な策定ノウハウを提供・指導することは、単に調達が滞らない対策としてだけでなく、サプライチェーン全体として統一した方向性をもつBCPを策定することにも繋がります。
製造システムを包括的に捉え、グループ全体としての事業継続力を向上させる上でも、協力企業への積極的なBCP促進の働きかけは有効なのです。
一方で、多くの部品調達先を持つ大手メーカーでは、災害時に個々の取引先の状況確認をメールや電話などで行うことは非常に困難です。
そのため迅速かつ確実に取引先の状況確認を行うには「安否確認ツール」を協力企業に導入するのが最も有効な手段と言えるでしょう。
実際に協力企業の安否確認や、連絡手段として安否確認サービスを入れる企業は多数あります。
なお、非常時には誰もが混乱し通常のことでさえ難しい状況に陥ります。そのため、安否確認ツールを選ぶポイントとして、誰でも迷いなく簡単に使える「操作性」の高さが重要となります。
弊社の安否確認システム「安否コール」は、徹底的に操作性にこだわっており、マニュアルがなくとも直感的に使えるシンプルな画面デザインが特徴です。
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中小メーカーの場合
中小企業がBCPを考える際には、情報管理資源、人的資源、物的資源に関する強化などが大きなポイントとなります。具体的な対策をみていきましょう。
システムのクラウド化
現代における製造工程は、何らかのシステムで管理されている場合がほとんどです。ですから災害時にシステムが停止すると、たちどころに生産活動の停止しかねません。
中小企業の規模ではシステムのデータを、ネットワーク化せずに自社にあるサーバーのみで管理しているケースも散見されますが、これでは自社が被災した際、サーバーのデータも同時に被害を受けることになります。
システムをクラウド化すれば、自社が被災した際してもシステムの停止を免れることができます。導入時にはまず、パッケージ化された簡単な管理ソフトでクラウドの操作になれ、徐々に基幹的なシステムを移行させるのが現実的でしょう。
自社独自で遠隔のサーバを構築・管理する方法もありますが、こちらはさらにハードルが高くなりますので、やはりクラウドの導入がおすすめです。
労働力の確保
中小企業は、ふだんから最小限の人数で運営している場合が少なくありません。そのため被災によって業務につけない人が出ると、とたんに事業継続に支障が生じるおそれがあります。
製造業の場合、どうしても同じ場所での業務が必要になりますから、複数人が同時被災する可能性も捨てきれません。
災害大国の日本では、このような非常事態がいつ起きてもおかしくありません。
災害発生の時間帯などさまざまな状況を想定して、どの程度業務に就いて災害対応にあたることができるかをシミュレーションしておきましょう。どうしても人員不足が見込まれる場合は、取引先へ応援を要請する体制を構築して受け入れ手順を決めておくなど、連携体制を事前に検討するといいでしょう。
場合によっては、同業他社と相互応援の協力体制をとるなど、事業継続にむけた人員の確保対策を実現可能なレベルで講じておくことが重要です。
従業員の健康管理
災害時のような非常時は、待ったなしの対応が次々と迫ってくるため、長時間緊張にさらされた状態が続きます。
緊急時といえども、従業員の健康を管理する安全配慮義務は重要です。
必要に応じて、交代要員を早めに配置できるよう、継続すべき業務とリソースの配分を検討しておきましょう。
また、人員確保が重要になるのは、地震や風水害などの自然災害対応だけではありません。
新型コロナウイルス感染症の拡大で急速に意識されるようになった衛生対策や健康管理も、平常時から習慣づけて実施しておきましょう。
備蓄
事業継続のために必要な物的資源を洗い出し、重要度を決めて備蓄量と管理方法を検討しましょう。
製造の工程を中断させないための資材や部品の在庫調整はもちろんのこと、災害が発生した際の復旧対応に必要な資機材や、対応にあたる従業員を支援する備蓄など、次のようなものを整備する必要があります。
- 資材・部品の調達が停止した場合でも製造に支障が出ない在庫
- 設備が被災した場合の復旧や代替稼働に必要な資機材
- 電力・用水などの代替
- 従業員が災害対応にあたる場合の食料、飲料水、調理器具、寝具、冷暖房器具
- 突然の発生で帰宅困難になった従業員・来訪者の食料、飲料水、毛布等
とはいえ備蓄は理想を追っているときりがありませんから、重要性と実現可能性を考え、優先度を決めて整備しましょう。
従業員の安否確認
製造業のBCPで最も重要となるのが従業員の安全管理です。
非常時への対応リソース確保という面もありますが、平常時から重要視される従業員の安全配慮義務の観点からも、突然起こる災害に対し、従業員がどこでどのような状況になっているかを把握し、すぐに対応の指示を出せるしくみをつくる必要があります。
毎年のように大きな災害が発生する昨今において、安全配慮義務は「災害だから仕方ない」ですまされるものではありません。
実際のところ、東日本大震災の津波による被災では、企業の対応が訴訟問題に発展した事例もみられます。
不測の事態でも従業員の安否をすばやく把握し、安全確保の指示が出せるしくみ作りには、「安否確認ツール」の導入が不可欠です。
なお、当社の安否確認システム「安否コール」は、東日本大震災や熊本地震でも問題なく稼働した実績を持ちます。
また、安否確認システム「安否コール」は日常業務でも活用できる安否確認ツールなため、普段から使い慣れておくことで、緊急時でもスムーズな対処が期待できます。
パソコンだけではなく、スマートフォンからも利用可能のため緊急時でも速やかに従業員の安否状況を確認できます。
まとめ
ものづくりで日本の経済を支える製造業は、現場が止まると致命的なダメージを受けるため、最もBCP対策を必要としている業種ともいえます。
大企業の場合は、全体で統合した事業継続方針のもとで、サプライチェーン全体の強化になるBCPの構築が必要です。
中小企業の場合は、自社がサプライチェーンの中のボトルネックにならないよう、重要業務が中断しない・中断してもできるだけ早く復旧させるBCPを構築し、連携体制を構築してください。
いずれにせよ、BCPは策定するだけでは「絵に描いた餅」です。平時から訓練や研修を行ってBCPの実行性を高め、事業継続力の向上を図っていきましょう。
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