BCPは企業になぜ必要?中小企業こそ策定しておくべき理由
2021/02/24.
BCP(事業継続計画)は、大規模災害や新型感染症などの緊急事態に備えるため、経営戦略上必須ともいわれる計画です。
ここでは、企業がBCPを策定すべき理由やメリットのほか、策定・運用のプロセス、プロジェクト立ち上げ時の注意点など、経営者やBCP担当部署の方が気をつけるべきポイントを解説します。
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企業がBCPを策定する目的
はじめに、BCPとは何か、なぜ必要性が高まっているのか、BCPを策定していない場合に企業がどうなってしまうのかなど、BCP策定の意義や目的について知り、自分の会社とどのように関係するのかを理解しておきましょう。
BCPはビジネス(事業)の継続を目的とした計画
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、緊急事態が発生した際でも事業を継続させることを目的として定める計画をいいます。
大規模地震や巨大台風、感染症の流行、テロなどに直面したとき、自社への影響を最小限にしつつ事業を継続させるため、あるいは中断した事業をできるだけ早く復旧させるため、平常時の対策や、いざというときに優先して行う対応を取り決めます。
BCPと似た計画に災害対策や防災計画といわれるものがあります。
防災は災害に備える対策や災害発生時の行動全般を計画しておくもので、自社の被災を想定したり事業に優先度を設けたりはせず、会社として実施すべき対策を定めます。
企業のBCPと従来の防災活動との違いを簡単に確認しておきましょう。
<企業のBCPと企業の防災活動との違い>
企業のBCP | 企業の防災活動 | |
目 的 |
生命の安全 重要業務の継続または早期復旧 |
身体の安全 物理被害の軽減 |
考慮する事項 | 事業中断の原因となる事象 | 拠点のある地域で想定される災害 |
重要視する事項 |
安全確保や被災者の救助 目標とする時間とレベルでの重要業務の復旧 経営・利害関係者への影響軽減 利益を確保し企業として生き残る |
死者数と損害額を最小限にする 安全確保や被災者の救助 拠点の復旧 |
計画の対象 | 全社+サプライチェーンなど依存先 | 個別の拠点 |
取組主体 | 経営者を中心に横断的 | 防災や総務・施設部門 |
一言でいうと、BCPはあらゆる危機的状況において企業が存続するために必要な計画といえます。
BCPの重要性が高まった背景
BCPを策定する必要性がクローズアップされたのは、2001年9月のアメリカで起きた同時多発テロ事件がきっかけです。
オフィスビルへ航空機が衝突するという想定外の事象に対し、アメリカ大手証券会社のメリルリンチ社は、BCPを発動して迅速な初動対応を行い、企業価値や信頼を高めることができました。
BCP誕生の歴史については以下の記事に詳しい話を掲載しています。
日本においてBCPが注目されたのは、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震でした。
自動車のピストンリングの生産工場が被災した影響で、国内の自動車メーカー全社が生産をストップさせてしまう事態が起きたのです。
この地震をきっかけにして、単なる防災だけでなくサプライチェーンも含めた事業継続の対策の重要性が高まりました。
現在も、東日本大震災をはじめとした大規模・広域の地震や津波、地球温暖化により激化する豪雨や台風、新型ウイルス感染症の世界的流行など、企業活動が広域化・グローバル化し、流通が複雑にネットワーク化しています。
ひとつの想定外が大きな影響となって広がり、深刻化する事例が増えているのです。
BCPを策定していないとどうなる?
不測の事態によるリスクは、人、ライフライン、業務に必要な設備、システム、データ、仕入先や物流、資金と、あらゆる要素に潜んでいます。
例えば、BCPを策定していない場合、次のような問題が起きる可能性があります。
- 従業員の安否がわからず確認に時間をとられ、そのあいだ何も対応できない
- 重要な判断をする幹部や上長が被災し、何をどうしてよいかわからなくなる
- 建屋の被災やガス漏れなどで危険なため、立ち入り禁止になってしまう
- 機械が転倒したり部品が壊れたりして作業が停止する
- 停電が長期にわたり、温度管理などができなくなって商品がだめになる
- 物流が止まり、資材や燃料などが届かず事業が続けられない
- サーバが故障して重要なデータが取り出せなくなる
- 通信が途絶し、社内への連絡も顧客への連絡もできない
多発するトラブルへの対処ができなくなって事業再開が大幅に遅れ、他の業者に顧客を奪われ、そのまま倒産してしまう可能性もあります。
中小企業がBCPに取り組むべき理由とは?
事業継続を検討する必要があるのは、大勢の従業員を抱える上場企業や、拠点分散など広く対策を考えなければならない大規模な企業が対象で、中小企業には縁のない話だと思われたかもしれません。
たしかにBCP策定は義務ではないのですが、実は中小企業においてもBCPを定めるメリットは大きく、一歩進んだ経営戦略を打ち出すことができます。
倒産・廃業リスクを抑えられる
BCPの最大のメリットは緊急事態への悪影響を最小限にできるところです。
経営基盤が弱い場合、小さな想定外でも倒産・廃業リスクが高まってしまいますが、BCPでこのリスクを軽減できるのです。
東日本大震災を例にすると、被災地内の企業だけでなく、関連会社や取引先まで倒産する事態が起き、10年を迎える今も続いています。
帝国データバンクによると、東日本大震災の関連倒産は、2011年3月~2020年2月の9年間で累計2,021件(負債1,000万円以上、法的整理による倒産、個人事業主含む)にのぼりました。
9年目は初めて件数が前年を上回り、今も影響が少なくないことが伺えます。
もしBCPがあれば初動時にうまくもちこたえ、最悪の事態を免れた企業もたくさんあったはずです。
緊急事態は企業の規模に関係なく突然やってきます。
中小企業こそ、BCPで最悪の事態に備えておく必要があるのです。
取引先から信頼を得やすくなる
「災害は突然起きるものだから仕方がない」と許される時代ではなくなっています。
東日本大震災では、津波で亡くなった従業員に対し、企業側の事前対策や緊急時の判断に問題があったと訴訟も起きています。
もはや「想定外」だったという言い訳は通用しないのです。
不測の事態に備えBCPを策定して事前対策を行っているかどうかを、取引先の選定条件としている例も出ています。
BCP対策に真面目に取り組む企業は、自社に影響を与える取引先が同じように事業継続を重要視しているか注目しているのです。
別の見方をすれば、BCPの策定や対策の推進は企業のアピールポイントになるわけです。
BCPは、危機管理への取り組みが充実している企業として信頼を高め、競争力を強める武器ともいえるでしょう。
経営戦略のブラッシュアップに役立つ
BCP策定には、直接的なリスク軽減を図ったり取引上有利になったりするだけでなく、検討のプロセスが業務改善につながるという間接的なメリットもあります。
BCPは、自社の操業を停止させるほどの甚大な事象に対し、企業として何を最も大切にするのかを定めていく「選択と集中」の経営戦略です。
BCPでは、自社にとっての脅威や脆弱性、立ち向かうためのリソースなど、次のような項目をひとつひとつ精査していきます。
① 自社にとって最も脅威となるものは何か
② 自社のどの部分が脆弱か
③ 現状のリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)にはどのようなものがあるか
④ リソースはどのくらい被害を受けそうか
⑤ 限られたリソースをどこに集中させるか
⑥ 何の事業を最優先に再開するか
自社の強みと弱みを明らかにし、事業継続の方針に従って強化するポイントを決め、平常時の強化対策を行います。
業務の洗い出しやリソースの整理を行うことで、業務改善や経営戦略の見直しにつなげることができるのです。
BCPの策定・運用の流れ
では、BCPは具体的にどのようにして策定していけばよいのでしょうか。
ここからは、BCPの策定プロセスと運用のポイントについてみていきましょう。
BCMのプロジェクトを立ち上げる
まず、BCP策定を部門横断型のプロジェクトにしましょう。
BCPは企業の経営戦略に関わる決定事項を多く含むため、全社的に行う必要があります。
専門のプロジェクトを立ち上げて、経営層など組織の意思決定権をもつ人が関わるチームで検討を進め、策定後の運用も含めたBCM(Business Continuity Management:事業継続管理)の仕組みをつくるのが理想的です。
プロジェクト推進の中心となるBCP担当部署は、危機管理や経営企画に関する部門が最適です。
そのほかでは、従業員や施設の現状を把握する必要があるため総務部門も動きやすく、中核事業が明確であれば、該当する事業部門の担当部署も加わることで業務分析や対策検討が効率的に進むでしょう。
BCPは全部門の業務を横断的に調査・分析し、戦略方針をたてていくため、各部門の管理担当者が参加すると円滑に取り組めます。
BCPを策定する
実際にBCPを策定する際は、次のステップでひとつひとつ検討を進めます。
①基本方針の決定 | 策定の意図や目的、企業として大切にする理念や基本方針を決定し、何を守るかの目標を設定する。 |
②重要商品・事業の検討 | 業務内容を洗い出し、最悪の状況になったときに最優先に守り、いち早く復旧させる事業を選定する。 |
③被害の想定 | 自社にとって最も脅威となる事象を決め、想定されるリスクを洗い出して発生の頻度と影響の大きさを決める。 |
④事前対策の検討 | 想定されたリスクを踏まえ、被害を抑止または軽減するために事前に行う対策を決定する。 |
⑤体制の整備 | 緊急時の意思決定における責任の所在や代行順位、代替拠点や拠点分散方法、指揮命令系統や情報収集体制などを決定する。 |
⑥BCPの策定 | BCPの発動要件や発動時の具体的な対応内容とタイミング、役割分担、行動手順などを検討し、役割別・時系列などで整理する。 |
⑦BCPの定着方法の検討 | 訓練による計画の点検・見直しや、教育・研修による社員への定着などBCPの管理方法を検討する。 |
BCP策定の具体的な流れについては、以下の記事を参考にしてください。
文化を定着させ継続的に改善していく
BCPを実際に「動ける計画」にしていくには、訓練や研修を繰り返し行い、計画の周知と習熟、検証、見直しを図るPDCAサイクルでの運用が欠かせません。
不測の事態が発生したときに最後に力となるのは「人」です。
BCPを実効性あるものにするには、実際に対応を行う従業員一人ひとりがBCPを理解し、いざというときには計画に沿った役割やタイミングで対応できるようBCPの策定内容を定着させていく必要があります。
さらには、想定外の事態が起きたときにも従業員が自ら判断し臨機応変に対応できるよう、BCPの方針に沿って自律的に行動する「BCPの文化」を醸成させることで、あらゆるリスクに強い企業となっていくのです。
BCPの策定にあたっては、研修や訓練を軸にした年間の運用プログラムをセットで構築するなど、あらかじめ教育や検証のサイクルをしくみにしておきましょう。
BCP策定時の注意点
BCP策定にあたっては、危機的状況のなか限られたリソースで全体最適の行動をとるための対策をさまざまな角度から整理していきます。
計画の策定プロセスも、重要度を明確にして選択と集中の方針で取り組むことが肝心です。
また、事前対策を進めるにあたっては通常業務とのバランスもあり、予算も限られてくるため、費用対効果を考え、優先度を決めながら取り組む必要があります。
いつどんな危機が発生するかは予測できませんし、すべての事態を想定したBCPにするのは不可能です。
完璧な計画を目指して間に合わなくなるより、不完全でも優先度の高いものから取り組みを進め、少しずつBCP文化を育みながら計画を充実させるサイクルをつくりましょう。
まとめ
BCPは、緊急事態が発生したときに自社のビジネスを守り、生き残るための砦となるだけでなく、経営戦略を明確にして業務改善につながり、取引を有利にするなどのメリットもある、企業の要といえる計画です。
BCP策定プロジェクトを積極的に活用し、全社を巻き込んだ取り組みとしてBCP文化を育みながら、選択と集中で自社の強みを伸ばしていきましょう。
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